2012年11月16日

「ふたたびの加奈子」    新津きよみ

「ふたたびの加奈子」    新津きよみ

五歳の娘を亡くした夫婦の物語・・・と聞いて胸が痛かった
私の妹も5歳で交通事故で亡くなって、そのあとの両親を子供ながらにずっと見てきた
納棺の時小さな遺体にすがってさせなかったという母
8歳だった私はそれを見るのが怖くてその場に行くことさえ拒否した
さっきまで生きていたはずの愛する人間が、冷たい物言わぬ骸になって帰ってくる不条理
事故にしろ災害にしろ病にしろ悲しみや怒りは同じだと思う
そして自分の命と取り換えてもいいと思うだろう

この物語は娘を失った母親が見えない魂になった娘を追いかけてみたものから大きく物語は動き、意外な方向へゆったりとしかし巧妙な仕掛けと一緒に進んでいく
保母や栄養士の資格を持ったしっかりものでありながら、人に知られたくない目的へと冷静にまたひたすらに進む母親 容子
そのひたむきさに危うさを感じながらも亡くなった娘の魂を追いかける彼女を心配し、またあっけなく失った娘を愛する父親 良樹
奇抜さのない濃い印象のある人物像が少ないのが物語にリアリティを出す一方、ファンタジーな場面を交えた淡々とした喪失と再生の物語としての印象がある
派手な展開やどんでん返し的なダイナミックさは少ないが、その分無力な子供に対する大人の持つ心理的な圧迫感や閉塞感が読むほうに緊迫感を与えてくれる
恐怖というより母親として同じ人間として事情を抱える、それぞれの登場人物への淡い共感や親近感が、物語をよりリアルに感じさせた
すべてが終わったラストの夫の良樹の一言が私の涙を誘った
そして生きていた人をある日突然失った悲しみを思い出しまたその傷を束の間癒された気がした

このシーンを広末涼子 稲垣吾郎が出演する来年公開予定の映画の中で早く見たいと思う
可愛い加奈子はどんな笑顔で私たちを迎えてくれるだろうか
きっとそこで私は40年前の私の母の体験をなぞるのだろう
しかし私は当時の8歳の子供ではなく、震災を経てまた自分が育てた子どもを送り出した大人として受け止める

「失ったものは形を変えて還ってくる」 
漫画家内田善美さんが作品の中で語らせたセリフが頭を横切った


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posted by YUE at 21:25| Comment(1) | 感想色々 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年11月11日

フジテレビ 2001年 横溝正史シリーズ〜犬神家の一族

言わずと知れた横溝作品の名探偵金田一耕助が血まみれの無残な死体や怪奇な殺人事件を解決する推理シリーズ
主役に当時最年少の金田一役だった稲垣吾郎
鋭い観察眼や優しい人柄の傍ら、もしゃくしゃした長髪をかき乱してふけを飛ばす奇人ぶりを実に楽しそうに演じていた
「わかった!」が口癖の警部や「耕さん〜〜」と親しく呼ぶ作家
陰惨な殺人の手口や謎の多い背景や人物が織りなす昭和初期から、戦後のダークな側の日本の風景に似合いすぎる正当な美男子の風貌はまさにはまり役
そしてその重さや暗さを稲垣金田一はその不思議な明光のある存在感で、事件の人物が織りなす救いのないような展開をほのかに照らして見ているこちらの気分を決していやなものにさせない
内容はサスペンスで血が飛び死体が並ぶのだが妙な安心感を以て茶の間に流せるのはそのためだ
(役柄もそうだが稲垣本人が持つ湿り気のある暖かさを持つ資質のせいでもある)
そこには人間というものの情や愛というものが、けして単純にまっすぐな線としてあらわれるものではないということを、金田一が慈愛のあるまなざしと優しい声でそれを問いながら謎に向かうからだろう
そして彼が犯人を追いつめて追い詰めて自白をさせたり殺したりしないし、万事を見事に終わらせる無敵なヒーローでもないこともあるかもしれない
彼の頭脳の中また心の中では、犯人も被害者も風の中の一風景、そして悲しみも喜びもその中で飄々とゆれる花のような存在なのだろう
彼は作者が語る物語の中では見事な語り部であり登場人物であり大きな額縁として存在して、闇の中にうごめく人間模様のシルエットを見事な隠し絵に収めている
何度も繰り返し映像化された作品だが、最新にして俳優だけでなく作家作品のファンから支持されているのは、「犬神家」の世界を惜しまずに再現してさらにそこに映像のソムリエ 星 護監督のの品格とユーモアをちりばめた熱意が反映されたのだと思う
手元でクリアな映像で何度でも見たいと思わせる、このままテレビ局の収納庫においておくには惜しいテレビドラマ
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posted by YUE at 15:58| Comment(0) | 感想色々 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年11月05日

TBS系列 ゴロウ・デラックス

TBS系列 ゴロウ・デラックス

SMAP 稲垣吾郎と 元TBSアナウンサー 小島慶子が旬の本 作家を相手に深夜ならではの楽しくきわどくも深いトークまた作品の朗読で紹介する番組
セットは極めて小さくて定番化されたもの
他にはADがちょっとでるだけのシンプルな番組構成
本編前の二人の漫才?がこの番組全体の雰囲気を前置きする
紳士的にして品行方正 しかし時々小気味よさのある毒を吐いたり自虐的にさえになる国民的アイドル稲垣吾郎の普段のバラエティやドラマでは見せない、彼のもう一つの顔がここにある
歯に衣着せぬ語り口とあけすけなくらいまっすぐな感性と気性の小島さんは同世代の彼にとっては信頼できる同級生のような気安さや安心感で、海千山千のゲストを一緒に迎えて、内容は静かながらも文化に能動的な番組を成り立たせている
電子化 読書離れと言われて久しい昨今 同じく斜陽化を言われるテレビで本を、さらにその作家を紹介する番組を立ち上げ続けるのは斬新であり難しいはずだが、このスタッフとキャストは続けてきた
番組自体が視聴者の媚びた内容ではなく、一作品一作家にこだわった紹介や朗読に徹した内容またはご本人による実演や番組ならではの国民的アイドルの名前がないロケ(笑)やらで、一貫して番組のスタイルを持ち続けていることが、作家や次のネタを探している業界や視聴者に信頼を得て、次なる回への期待を持たせるのだろう
残念ながら一律の全国放送でないのが残念な深夜番組である
しかしメジャーになることが決してこの番組の良薬ではないこともわかる隠れ場所的穴場的面白さが愉快な番組
「美輪明宏SP」は一時間を費やして彼の壮絶で華麗な歴史 厳しくも深い審美眼 愛や命への信念をセットの中で語らせる
三島由紀夫や寺沢修司に「どうしようもない男が好きになる」と言われた美輪が、AD山田親太郎の顔をやたらなでたことにやきもちを焼く稲垣
美輪は「男として見ていない」芸能人としての彼に「トップにならないという賢い生き方」を語る
稲垣とは20歳からの付き合いという美輪の言葉の含蓄は魔術的な微笑みが飾っている
うってかわって「赤塚 不二夫」宅訪問の回はおなじみの出演者の仮装姿から始まる
深夜枠ならでは?の適度なおふざけと素晴らしい作品への畏敬とのバランスのとり方は、この番組の大きな一面だと思う
相手によって変わらない稲垣さんの知性的な態度や小島さんの機転の速さが、少人数でのロケながら安定した笑いやうさん臭くない説得力を醸し出す
「赤川次郎」の回はまさにゴロデラを「本」を紹介する番組 「朗読」する番組として信頼してテレビに赤川次郎が出演を決めた、まさに番組冥利につきる回
作家が作品について語る機会 特に電波媒体では少ないのでファンにとっては貴重なものだと思う
多作で知られる小説の制作秘話 また原作をミュージカルにした劇団四季の舞台風景も見れるという、まさに深夜に起きてみていたあなたがお得感満載の回
メジャーからマイナーからの広範囲の選出題材は準備するスタッフの努力の賜物だろう
マイナーからメジャーへの通り道としてこの番組が、本という決して色褪せない人間の知識の三次元物質を愛する人間のわくわくする宝箱のような存在になるだろう
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posted by YUE at 21:34| Comment(0) | 感想色々 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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